自分の身体=生命集合体

身体って、本当に不思議な物体です。動作の勉強を始めてから早17年。それ以外にも、人生経験や様々な知識が増えることによって、身体に対する見方が随分と変わってきました。
 
 
例えば、「所有」の概念から自分の身体について考えてみます。所有の概念が生まれたのは、私たち祖先の生存戦略が、遊動民から定住民へと変わった時からです。ホモ・サピエンスは約20万年前から誕生したと言われており、定住し始めたのは約1万年前です。それまでは同じ場所で暮らさず、常に移動して狩猟採集をしていました。だから、地球は誰のものでもなく、「所有」という概念はありません。自分と他者の認識も、今とは全然違うものだったでしょう。そう考えると、当然、自分の身体に対しても、「自分のもの」という認識ではなかったんじゃないかと思います。
 
私自身も、自分の身体が自分のものであるという感覚が、知識や経験が増えるほど、薄れている気がしています。実際に、今では臓器たちが臓器の意思でメッセージ物質を発信していて、脳だけが司令塔ではないということが分かってきています。骨にも意思があり、骨に衝撃を与えることで、筋力、精力、記憶力、免疫力を若く保つホルモンを放出するということが分かってきています。
 
それに、私たちの細胞ひとつひとつの中には、ミトコンドリアがいます。私たちは、ミトコンドリアと共存しています。というより、無数の生命体と共存しているのが身体であり、だから単に「自分の身体」とは思えないのです。心臓は勝手に動いているし、傷がつけば回復します。
 
また、私は「身体に翻弄されている」とも感じます。女性は特に、生理がありますが、例えば、生理と低気圧が重なると、雨の日の猫のように、気持ちが大人しくなることがあります。(ならないときもあります。)人によっては、生理によって、精神が不安定になる方もいます。
 
私は、自分の身体の状態を常に細かく認識しています。例えば、イスに座ってデスクワークをしていると「そろそろ体勢を変えてください」という指示が5分に1度くらいのペースで来ます。身体がそう訴えてくるので、私は体勢を変えます。それとか、「最近運動不足です。背筋を縮めて血流をよくしてください」という指示があったり、「骨盤が歪んできています。どうにかしてください」という指示があったりします。笑 私は毎日無数にくる訴えを聞いて、動かされているような気がするんです。
 
もちろん、私の意思によって「ごめんだけど、明日朝早いからあと4時間しか寝れないよ」と言って、寝不足で自分の身体を操縦することだってあります。ご飯を食べることも、トイレにいくことも後回しにして、集中してデスクワークを行うときもあります。そうやってたまには無理をするのですが、総体的には、身体が喜ぶ方へと、自分の身体を動かします。
 
ちなみに、身体は、楽なのが好きなのではなくて、多分、回復と循環することが好きなのです。そのための適度な苦痛(例:空腹、筋疲労、筋肉痛)は問題ではなく、むしろ、身体にとっては、それが快なのか不快なのか、わからないか、あるいは快と不快は同じカテゴリだと思っているのかもしれません。一方、楽ちんで循環しない状態はむしろ嫌がり、独特のしんどさを放出します。それと、もちろん、働きすぎの状態も嫌がります。
 
私のパーソナルレッスンに長期的に取り組む方には、こういう概念をお話した上で、取り組んでもらったりします。特に、見た目にコンプレックスを持っている方には、全く次元の違う視座があるということを気づいてもらうために、お話します。そうすることで、その方の身体に対する見方が変わり、私の言っている意味を、身体づくりを通して感じてもらえるようになっていきます。
 
身体の専門家の私からすれば、私の身体も、あなたの身体も、まるで小宇宙のような凄さがあることに、変わりはありません。「あれができる、これができない」「太りづらい、太りやすい」「肌がキレイ、肌が荒れやすい」などということは、大した問題ではないんです。同世代とらべてどうだとか、そんなことは気にせず、痛みを抱えている人は、痛みを取るための身体づくりを学び、実践し、自分の身体がむくみやセルライト、骨格の歪みなどによるアンバランスなボディラインだと思う人は、本来の自分の姿(=自分史上最高ボディ)になるために、身体づくりを学び、実践すればいいだけのことです。
 
メディアやSNSなどでは、こういう視座とはかけ離れた身体への価値観を植え付けることばかりが、相変わらず発信されています。情報ばかりに頼らないで、自分の身体をしっかりとみてください。自分の身体にとって、何をすれば良いのか。メディアが教えてくれるのではありません。表層の苦しみを取り除こうとしても、逆に遠回りになってしまうことが、往々にしてあります。答えは外にあるのではなく、中にあります。そのことを忘れないでくださいね。