身体に意識を向けることの面白さ

私は19歳からこの道に進み
身体の勉強と研究をしてきましたが、
それ以前の私の身体に対する認識と、
今の認識とでは比べ物にならないほど、
度合いが違います。

足指に意識を向けたことは一度もありませんし
つま先と膝の向きなど、考えたこともありません。

テニスの練習では、ただただ正確にボールを
コントロールできるように何度もボールを打つ練習をする
その中でフォームを調整して、良い感覚で打てるフォームを
身につけていくという感じでした。

例えばテニスの動きでは、肩と肘と手首の位置関係と動かし方が
大事になるのですが、そのような知識はありませんので、
もちろん意識もありませんでした。

身体の勉強を始めたばかりの頃でも、歩くとき、特に左足の動きがどうしても
“ペタン、ペタン”となめらかに動かすことができず、
どうしたらそれがうまくできるのかわかりませんでした。

でもとにかく、起きている間は家でも外でも、全てビルケンシュトックを履き、
起きている間はずっと「足指を踏ん張って立つこと」を意識しつづけ
「肘は胴体より前に振らない」というルールなど、
その当時学んだことをとにかく意識しまくりました。

その上で、20歳から骨と筋肉の動きの解剖学を理解するために、
週2回でクラシックバレエをはじめました。

「親指より膝は外にねじる」というルールを徹底的に守り、
上半身がものすごく力んでいてもお構いなく、ひたすらそればかりやっていました。

「地面から離れたら足はいつでもつま先を伸ばす」
というルールは、階段の上り下りや、少し高い場所から着地するときなど、
日常生活の中でも徹底して実践しました。

すると、気づけばだいぶ足の裏の筋肉が発達し、
上体を引き上げるインナーマッスルや背筋がつき、いつの間にか、
”ペタン、ペタン”と歩かずにうまく歩けるようになりました。

もちろんこの当時は、今、私が皆さんにお教えしているような
それ以外の細かいルールはまだ理解していない頃です。

でも、学んだことを愚直にやるだけでも十分な成果が得られました。

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この話の中には、身体を変えていくためのたくさんのヒントが隠れています。

身体づくりの指導をしていく中で自分ができないことばかりに意識を向けている人は
どうしてもなかなかうまくいくことができません。

そうではなく、今知識として得た身体の使い方のルールを
ひたすらできるように目指して訓練すれば、
多くのことは誰もができるようになります。

そして、例えばうまく歩けないとき、歩き方の練習ばかりしても効率が悪いんです。

足裏の筋肉を発達させるには、歩く練習よりバーレッスンの方が
圧倒的に良い手段になります。

「うまく歩けるようになる」という目標を達成するために
別のアプローチから足の使い方を理解していくということが大切なんです。

しかし、こういったことは素人がわかることではありません。

だから、私たちプロが、何をどう練習すべきかを指導する意味があるんです。
骨と筋肉の構造も質もすべての故障のケースも理解していない人が
我流で行うのはやはりおすすめできません。

私たちプロが見えている世界は当たり前ですが、
素人が見ている世界とは全く違う視点だらけです。

24歳のころ、夏嶋先生のところに初めて訪ねたとき夏嶋先生が
「(床につけるのは)親指の腹じゃない。先端だ」と言いました。

すでに5年間の勉強を積んでいる私にとっては
その一言で、すべての身体の使い方が線で理解できました。

プロは、無駄なアドバイスをしません。
その人に必要なアドバイスしかしません。
その動きができている人には全く言葉を発しません。
言葉を発するのは、その人の動きをみて、できていないから発しているんです。

身体を本当に変えたいと思うなら、プロの言葉をしっかり耳に入れてみてください。

プロの言葉を耳に入れず、自分が聞きたいことだけ聞くという人は、
なかなか身体の使い方を理解することができません。

それは自分が見えている視点のみで物事を捉えようとしていて
プロが見えている視点を理解して捉え方を変えようという意識が
薄いからなのではないかと思います。

なかなか感覚的な問題の話なので何を言わんとしているのか、難しいと思いますが、
このメッセージから、何かしらヒントを得てもらえたら嬉しいなと思います。

身体の使い方を何も分かっていなかったころの私

 
身体の使い方を理解している私